食品のパッケージには、さまざまな成分が表示されています。これらの多くは、食品表示法などの法律に基づき、表示が義務付けられています。特に、消費者庁への届出により機能を表示できる「機能性表示食品」では、機能性関与成分の含有量を正確に測定し、適切に表示しなくてはなりません。
特定の成分の有無や含有量を正しく表示するには、食品の分析が必要です。食品は複数の原料から作られているため、成分同士の相互作用によって検出が難しくなる場合や、検出方法に工夫が求められることもあります。そのため、食品分析や製品開発を行う際には、成分に適した分析技術が不可欠です。
三菱ガス化学では、BioPQQ®の安全性や効果の研究に加え、分析技術の開発にも取り組んでいます。本記事では、食品分析に用いられる主な技術と、三菱ガス化学が開発したBioPQQ®の新たな分析技術について紹介します。
食品分析でよく使われる分析技術
食品の成分を調べるために、以下のような分析技術がよく用いられます。
①クロマトグラフィー
食品分析で広く用いられている技術の一つが、クロマトグラフィーです。食品には多種多様な成分が含まれていますが、特定の物質を正確に測定するには、それらを分離し、個別に取り出す必要があります。その分離にクロマトグラフィーは用いられます。
原理としては、細いガラスなどでできたカラムに特殊な物質を詰め(固定相)、その中を分析対象の混合物(移動相)を通過させるというものです。移動相中の成分は、それぞれ異なる性質をもつため、固定相を通り抜ける速度が異なります。固定相と移動相の組み合わせを変えることで、特定の特徴をもつ物質を分離することができます。

クロマトグラフィーにはさまざまな種類がありますが、移動相の種類によって以下のように大きく分類されます。
- ガスクロマトグラフィー(GC):移動相が気体
- 液体クロマトグラフィー(LC):移動相が液体
- 高速液体クロマトグラフィー(HPLC):液体クロマトグラフィーに圧力をかけ、より効率的に分離を行う方法
②分光法
分光法は、物質に光を当てて、吸収や反射された光を分析することで物質の特性を調べる方法です。どの波長の光を吸収するのかは、物質中に含まれる成分や化学組成や元素などによって決まっています。
たとえば、私たちはさまざまな色の物質に囲まれて生活していますが、物質の色が異なるのは、物質ごとに吸収する光の波長が異なるからです。赤い物体は青や緑などの赤以外の光を吸収して赤を反射させるため、私たちの目には赤く見えます。
食品分析には人の目に見える可視光だけでなく、紫外線や赤外線なども用います。利用する光の種類によって、分光法は大きく以下のように分類できます。
- 紫外可視分光法(UV-Vis):ビタミンC、着色料、ポリフェノールの分析などに使用。
- 赤外分光法(IR):化合物の部分的な構造を推定することが可能。有機物質(油脂、たんぱく質、炭水化物など)の成分分析に利用。
- 近赤外分光法:近赤外線は紫外可視光や赤外分析法に用いる中赤外光に比べて透過力が大きいため、試料の内側まで入り込むことができます。そのため測定したい対象を破壊することなく詳しく調べることができるのが特徴です。農作物の糖度、残留農薬やカビ毒の有無判別1)、酒類中のアルコール含量などの測定に利用されます。
③質量分析法(MS)
質量分析法では、試料を原子・分子レベルの微細なイオンにし、磁場や電場を使って分離し、その質量数と数を調べることで物質の種類や量を知る方法で、非常に高感度な測定が可能2)。クロマトグラフィーの移動相に適さない試料の解析にも有効です。
④高速液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と質量分析(MS)を組み合わせた手法。HPLCで成分を分離し、MSで質量を測定することで、食品中の微量成分を高精度に分析できます。特に、残留農薬の検出に使われます。
⑤核磁気共鳴分析(NMR)
磁場の中の試料に電磁波を照射し、特定の電磁波を吸収する現象を観測して化合物の構造を推定する方法。食品添加物の定量などに活用されます。

機能性表示食品中のBioPQQ®をどう測定するか
三菱ガス化学が開発した新しい機能性食品素材BioPQQ®は、現在、国内外のさまざまな製品に利用されています。ただし、現時点では錠剤などのサプリメントとしての利用に限られており、菓子や飲料などの食品に配合された製品はありません。
新しい食品素材を菓子や飲料などに配合するためには、その素材に適した分析技術が必要です。三菱ガス化学ではBioPQQ®をさまざまな食品に配合した際の分析技術についても研究を進めており、それらの技術を提供する準備が整っています。
BioPQQ®の主成分であるPQQ(ピロロキノリンキノン)は、他の成分と反応しやすいため、従来の分析方法では測定が妨害されるという課題がありました。また、これまで一般的に用いられていた分析方法は、天然素材中の微量なPQQを測定するためのものであり、機能性食品素材として摂取する量には対応していませんでした。さらに、測定には高価な試薬を使用する必要があり、実用性に欠けるという問題もありました。
このような課題を解決するため、三菱ガス化学は新たな分析方法を開発しました。ここでは、特許を取得した2つの技術を紹介します。
①PQQを安定な化合物に変換して定量する
PQQは水溶液中でアミノ酸や糖と反応しやすい性質をもっています。そのため、砂糖を含む食品やアミノ酸を配合した食品では、分析する過程でPQQがそれら複数の成分と反応し、分離が難しくなることで正確な測定が困難になるという課題がありました。
この問題を解決するため、PQQと反応してしまう食品中の成分よりも、PQQと反応しやすい物質を探索しました。食品中のどの成分とPQQが反応しているかがわからなければ分析は難しくなりますが、特定の物質とPQQを意図的に反応させることで、他の成分との反応を防ぐことができます。この方法により、PQQを安定な化合物に変換することで、PQQの正確な定量が可能になります。
検討の結果、アミノ酸の一種であるグリシンとPQQを反応させることで、より安定な化合物「イミダゾールピロロキノリン(IPQ)」を形成し、IPQを測定することでPQQの定量につなげる手法を確立しました。この技術は2019年に特許登録されました。

②還元型PQQを直接測定する
2024年には新たな特許も取得しました。還元型PQQを直接測定する技術です。
PQQは酸化型と還元型の2種類の状態があり、食品中の成分によっては酸化型から還元型に変化することがあります。
このような2種類の状態を取ることで、PQQを主成分とするBioPQQは体の中でミトコンドリアの働きを助けることができますが(参考:BioPQQ®とNMNの違いと共通点)、分析の際には問題が生じます。従来の分析方法は酸化型PQQのみを測定対象としていたため、食品中に還元型PQQが含まれると、実際の含有量を正確に測定することができません。前述のIPQに変換する方法も、還元型PQQが含まれる場合には適用できません。還元型PQQは空気中の酸素によって酸化型PQQになりますが、この反応はゆっくり進行するため、すべてを酸化型に変えるのは難しいという制約がありました。
この問題を引き起こす代表的な成分がビタミンC(アスコルビン酸)です。アスコルビン酸は栄養補助成分としてだけでなく、酸味料や酸化防止剤として飲料などに広く使用されています。そのため、PQQを含む飲料を開発する際には、この影響を無視することはできません。

そこで三菱ガス化学では、還元型PQQを直接かつ正確に測定できる技術を開発しました。
まず試料中のPQQをすべて還元型に変換する前処理を行います。その後、高速液体クロマトグラフィー法で分析を行いますが、移動相のpHを調整することで還元型PQQを安定化させることに成功しました。さらに、固定相の組成を工夫することで、食品中の還元型PQQを安定な状態で測定することが可能になりました。
これらの2つの技術により、BioPQQ®を含む健康食品や医薬品の開発がより精度の高い分析のもとで進められることが期待されます。今後、BioPQQ®を配合した製品が、菓子や飲料などの幅広い食品分野にも展開される可能性が広がりました。
BioPQQ®配合の食品の可能性は広がっている
現在、BioPQQ®は、主にカプセル状のサプリメントとして販売されています。しかし、身近な食品にBioPQQ®を配合されれば、さまざまなシーンで手軽に栄養を摂取できるようになります。
たとえば、スポーツ時に飲むドリンクに配合しミトコンドリアの活性をサポートする、あるいは、おやつに配合して楽しみながら認知機能を維持に役立てるといった応用が考えられます。
三菱ガス化学の研究チームは、BioPQQ®配合食品の開発を強力にサポートします。ぜひBioPQQ®を活用した機能性食品の開発をご検討ください。

参考
1) 高柳正夫「近赤外分析法による判別分析」一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
http://www.mac.or.jp/mail/200701/02.shtml
2) 長谷部潔「質量分析法」一般社団法人 日本分析機器工業会、2011年12月26日公開
https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/mass/method/