私たちの体は約37兆個の細胞で構成されていますが、そのひとつひとつにミトコンドリアが存在し、生命活動のエネルギー源であるATPを絶えず供給しています。
ミトコンドリアは、加齢や疾患の影響で機能が低下し、質や量が減少することが知られています。逆に、ミトコンドリアを増やす方法もいくつか知られています。たとえば、三菱ガス化学が開発した食品素材BioPQQ® は、培養細胞のミトコンドリアを増やすことが研究によって示されています(コラム「ミトコンドリアを増やす3つの方法」参照)。
ミトコンドリアの機能は全身のさまざまな組織に影響を及ぼします。この記事では、ミトコンドリアの機能低下によって現れる不調を科学的知見から整理し、運動・カロリー制限・サプリなどでミトコンドリアを増やした際に期待される5つの可能性について考察します。
1. 老化を遅らせる可能性

ミトコンドリアはATPを産生する過程では酸素を利用し、グルコース・アミノ酸・脂肪酸を分解します。そのため、ミトコンドリアの機能が低下すると、細胞にとって有害な活性酸素の制御や栄養代謝がうまくいかなくなります。
ミトコンドリアの機能低下は、メタボリックシンドロームやパーキンソン病、アルツハイマー病などの加齢関連疾患の一因と考えられ、研究が進められています1)。
さらに、人体で最も大きな細胞である卵子でもミトコンドリアは重要です。老齢マウスの卵子では、若いマウスに比べて、ミトコンドリアの分裂に異常が観察されており、卵子老化との関連が示唆されています2) 。さらにBioPQQ®がマウスの老化した卵巣機能を回復させることも研究によって示されています(コラム「【研究紹介】PQQはマウスの老化した卵巣機能を回復する」参照)。
このようにミトコンドリアの機能低下が、老化に関連した疾患のリスクを高めることから、ミトコンドリアを増やし機能を活性化することで、老化を遅らせる可能性が期待されます。
2. 脳や心臓の健康を守る可能性

ミトコンドリアは全身で働いていますが、とりわけ膨大なエネルギーを必要とする脳と心臓では、その影響力は大きくなります。
老化した脳ではミトコンドリア障害が報告されています3)。また、ミトコンドリアの活性をサポートするBioPQQ® を12週間摂取した健常高齢者では、認知機能に関するスコアが有意に維持されたという研究結果があります(コラム「【研究紹介】BioPQQ®の摂取で脳の機能はどう変わるのか」を参照)。
心臓は体内で最も多くのミトコンドリアが存在する臓器で、心筋細胞の総体積の約3分の1を占めると推定されています4)。近年の研究では、ミトコンドリア障害が心不全の発症と深く関わることも示唆されています5)。
これらの知見から、ミトコンドリアを増やし、その機能を維持することは、脳や心臓の健康を守るうえで重要だと考えられます。
3. 肥満を防ぐ可能性

ミトコンドリアは、脂肪を分解してエネルギーへと変換する代謝機能にも深く関わっています。脂肪を燃焼して熱を産生する「褐色脂肪細胞」は、ミトコンドリアを豊富に含むため褐色に見えることから、この名がつけられました。
加齢によってミトコンドリアの機能が衰えると、メタボリックシンドロームの発症リスクが高まることも示唆されています6)。さらに、BioPQQ® を摂取したマウスは、通常なら肥満につながる高脂肪のエサを食べても体型をほぼ維持することができました(コラム「【研究紹介】BioPQQ®はマウスの脂肪の蓄積を抑制する」参照)。
これは動物実験の結果ではありますが、ミトコンドリアを増やすことで肥満が抑制される可能性が期待されます。なお、サプリメントの摂取以外でミトコンドリアを増やす代表的な手段は、運動とカロリー制限です。これらのアプローチでミトコンドリアを増やそうと試みれば、肥満の抑制に相乗効果が期待できるでしょう。
4. 感染症にかかりにくくなる可能性

私たちの体は免疫システムによって守られています。肉眼では見えない病原体が体内に入ってきたり、がん細胞が発生したりすると、免疫細胞が活性化してそれらに対抗します。活性化した免疫細胞は大量のエネルギーを必要するため、ATPを作り出すミトコンドリアの働きが欠かせません。
近年の研究では、ミトコンドリアが免疫システムそのものを調節していることも明らかになってきました。ミトコンドリアは、免疫機能を担うT細胞、マクロファージ、B細胞といった主要な免疫細胞の活性化を支え、さらに、シグナル伝達分子を放出して免疫システムと連絡を取り合っていることもわかってきました(コラム「ミトコンドリアと免疫機能」参照)。
これらの知見から、ミトコンドリアを増やし、その機能を保つことで、感染症に対して抵抗力が高まる可能性が示唆されます。
5. 疲れにくくなる可能性

ミトコンドリアの機能が低下することが原因で起こる病気を総称して「ミトコンドリア病」といいます。ミトコンドリア病の症状は多岐にわたりますが、細胞のエネルギー不足により体のだるさや疲れを覚えやすくなる人が多いことが知られています。
一方、健康な成人にBioPQQ® を8週間にわたって摂取してもらった臨床試験では、睡眠の質の向上や疲労回復に効果があったことが報告されています(コラム「【研究紹介】「疲労」と「睡眠」に対するPQQの効果」参照)。
この試験ではBioPQQ® の摂取によって、「緊張・不安」「抑うつ」「怒り・敵意」「疲労」「混乱」といったネガティブな気分が有意に低下し、「活気」が増加したことも示されました。疲労回復の要因がミトコンドリア機能の向上による直接的効果なのか、あるいは睡眠改善や心理的ストレス緩和による間接的な効果なのかは現時点では断定できません。長期的な観察研究が必要でしょう。
いずれにしても、全身に分布するミトコンドリアの活性を高めることは、エネルギー産生だけにとどまらず、複合的な作用を通じて疲労の軽減に寄与する可能性が期待されます。
ミトコンドリアから健康を考える
以上、ミトコンドリアを増やすことで期待できる5つのメリットを見てきました。私たちの全身に存在するミトコンドリアは、代謝や免疫、脳・心臓機能など、健康の根幹を支える多様な働きを担っています。理想のコンディションを手に入れる第一歩として、ミトコンドリアを活性化させるライフスタイルを今日から取り入れてみませんか。
ミトコンドリアに関する最新情報は、PQQコラムで随時お届けします。ぜひ、ご活用ください。
参考
1) Chowanadisai, W., Shenoy, S. F, Sharman, E., Keen, C. L, Liu, J., & Rucker, R. B. (2011). Well-functioning cell mitochondria promote good health. California Agriculture, 65(3).
https://www.researchgate.net/publication/271351247_Well-functioning_cell_mitochondria_promote_good_health
2) Udagawa O, Ishihara T, Maeda M, Matsunaga Y, Tsukamoto S, Kawano N, Miyado K, Shitara H, Yokota S, Nomura M, Mihara K, Mizushima N, Ishihara N. (2014) Mitochondrial fission factor Drp1 maintains oocyte quality via dynamic rearrangement of multiple organelles. Curr Biol.;24(20):2451-8.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982214010732
3) Song N, Mei S, Wang X, Hu G, Lu M. Focusing on mitochondria in the brain: from biology to therapeutics. Transl Neurodegener. 2024 Apr 17;13(1):23.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11022390/
4) Li A, Shami GJ, Griffiths L, Lal S, Irving H, Braet F. Giant mitochondria in cardiomyocytes: cellular architecture in health and disease. Basic Res Cardiol. 2023 Sep 29;118(1):39.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10541842/
5) Hinton A Jr, Claypool SM, Neikirk K, Senoo N, Wanjalla CN, Kirabo A, Williams CR. Mitochondrial Structure and Function in Human Heart Failure. Circ Res. 2024 Jul 5;135(2):372-396.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11225798/
6)Mohanty A, Tiwari-Pandey R, Pandey NR. Mitochondria: the indispensable players in innate immunity and guardians of the inflammatory response. J Cell Commun Signal. 2019 (3):303-318.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6732146/