私たちの体は、高齢になると細胞の働きが低下し、老化が進行していきます。
老化による身機能の変化には個人差がありますが、一般的には筋力が低下し、内臓の機能も落ちていきます1) 。
また、細胞のエネルギーを作るミトコンドリアも加齢とともに機能が低下します。
ミトコンドリアの機能低下は、老化に関連するさまざまなプロセスと密接に関係している可能性があります2) 。
そこで、MGCの研究グループは、ミトコンドリアの働きをサポートするBioPQQ® が、加齢にともなう身体機能の低下にどのように影響するのかを、老齢マウスを用いて研究しました。
その結果、BioPQQ® が老化に伴う低栄養状態を改善し、筋委縮や筋力の低下を抑制する可能性が示されました3) 。
本研究成果は、2024年2月29日(現地時間)に、国際ジャーナル『Frontiers in Aging』に掲載されました。
この記事では、研究の内容を詳しく紹介します。
BioPQQ®は老化にともなう体脂肪減少を抑止する
これまでMGCの研究グループは、ミトコンドリア新生効果、認知機能改善効果、体脂肪減少効果など、BioPQQ®のさまざまな効果を確認してきました。
なかでも今回の研究と関連が深いのは、体脂肪減少効果です。
BioPQQ® を摂取していたマウスは、高脂肪食を摂取しても肥満状態にはならなかっただけでなく、CT画像によって筋肉量が増加していることが確かめられました。(参考 【研究紹介】BioPQQ® はマウスの脂肪の蓄積を抑制する)
BioPQQ® が筋肉量を増加させるのであれば、老化による筋力低下にも効果があるかもしれません。
そこで研究グループは、8週齢の若いマウスと、83週齢(約1年9か月)の老齢マウスを使って実験をしました。
老化により筋力が低下するサルコペニア研究には18か月以上のマウスが選ばれるため4)、本研究の老齢マウスの年齢も先行研究に合わせて選んでいます。
実験室で飼われているマウスの平均寿命は2~3年程度といわれており、1年9か月のマウスは高齢とみなすことができます。
老齢マウスを2つのグループに分け、片方は通常のエサを、もう片方のグループには通常のエサに加えてBioPQQ® を与え、8週間飼育しました。
比較のために、若いマウスも同じエサで同様の条件(BioPQQ® なし)で飼育しました(図1)。
通常のエサを食べていた高齢マウスは、脱毛、皮膚炎、骨格筋の炎症や筋力低下、体脂肪の減少などが徐々に起きてきました。
一方、BioPQQ® も同時に摂取していた老齢マウスは、体脂肪の急速な減少や筋力低下が抑制されていました。
また、骨格筋の炎症も緩和され、皮膚や毛の状態も良好でした。
図2は、実験開始時から8週目のマウスの写真です。
BioPQQ® を摂取した老齢マウスは、若いマウスよりは毛が薄くなっていますが、BioPQQ® を摂取していない老齢マウスに比べて毛並みがよく、栄養状態を保っていたことがわかります。
さらにCT画像で体内の状態を観察しました。黄色で示したのは、体脂肪の分布です。
BioPQQ®を摂取した老齢マウスは、摂取していない老齢マウスに比べて体脂肪の量が多いことがわかりました(図3)。
実際に各マウスの体組成を測定して、平均脂肪量と体内総水分量を測定して、脂肪量(図4左)と体脂肪率(図4右)も解析しました。
老齢マウスでは脂肪量と体脂肪率が大幅に減少していますが、BioPQQ® を摂取した老齢マウスの減少の程度は低く、実験開始時に比べて統計的に有意な差はありませんでした。
研究グループは、BioPQQ® が老齢マウスの体脂肪減少を防ぐメカニズムを詳しく調べるために、ラットの小腸の上皮細胞であるIEC6細胞を用いて実験を行いました。
D-ガラクトース(D-gal)を細胞に添加処理すると細胞の老化が誘導されることが知られていますが、D-galで処理したIEC6細胞は、コントロールと比べて増殖が抑えられ(図5A D-gal)、腸のバリア機能が損なわれていることを示す腸管透過性が上昇しました(図5B D-gal)。
一方、D-galと一緒にBioPQQ® 50μMを加えると、細胞増殖はコントロールレベルまで回復し(図5A D-gal+Bio PQQ50µM)、腸のバリア機能も有意に改善しました(図5B D-gal+Bio PQQ50µM)。
これらの結果から、BioPQQ® は細胞老化に伴う腸のバリア機能不全を改善し、そのことで老齢マウスの病的な体脂肪減少を防いだ可能性が示されました。
BioPQQ® はマウスの老化による筋力低下を防止する
次に、マウスの筋力や運動機能の変化を調べました。
マウスの筋力は、逆さにした網に何秒間落ちずにしがみついていられるかを測定するワイヤーハングテスト(図6左)で評価し、運動機能は垂直に立てたポールの先端にマウスをつかまらせて降りる能力を測定する ポールテスト(図6右)で評価しました。
ワイヤーハングテストは長い時間つかまっていられる方が、筋力が高いことを意味しています。
老齢マウスは若いマウスに比べて時間が短くなりましたが、BioPQQ® を摂取した老齢マウスは、摂取していないマウスよりも長い時間つかまることができました(図6左)。
これは、BioPQQ® によって筋力の低下が防がれた可能性を示唆しています。
また、ポールテストではポールを上手くつかめずに滑ってしまうとスコアが高くなります。
つまり、運動機能が高いほど低いスコアになります。
BioPQQ® を摂取した老齢マウスは、摂取していない老齢マウスに比べて運動機能障害の進行が防止されたことが示されました(図7右)。
筋肉の変化を知るために組織を観察したところ、老齢マウスでは炎症を起こしていることを示す物質であるサイトカイン(IL-6、IL-1β、TNF-α)が骨格筋で多く見られました。
一方で、BioPQQ® を摂取した老齢マウスでは、これらのサイトカインは減少していました(図8)。
このことから、BioPQQ® は老化による筋肉の慢性炎症を防止する可能性が示されました。
健康的に年齢を重ねるために必要なこと
人生100年時代と呼ばれる現在、心身ともに健康で充実した人生を送るためのヘルシーエイジングの実現が、ますます強く求められています。
高齢者の低栄養状態は、フレイルと呼ばれる健康障害に陥りやすく注意が必要です。
また、筋肉量や筋力が低下すると日常の動作が難しくなり、転倒や介護のリスクも高まります5)。
健康的に年齢を重ねるためには、低栄養の予防と筋力低下の抑制が重要です1)。
本研究によって、BioPQQ® が認知機能の維持だけでなく、老化にともなう低栄養状態の改善や筋力低下の抑制をサポートする可能性が見えてきました。
MGCでは今後もさらに研究を重ねて、多くの方々の健康の維持・増進に役立つ素材としてのBioPQQ® の可能性を追究していきます。
参考
1) 東京都保健医療局 高齢者の健康 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kensui/kourei/
2) Nuo Sun,Richard J. Youle, Toren Finkel (2016) The Mitochondrial Basis of Aging, Mol Cell; 61(5): 654–666. doi: 10.1016/j.molcel.2016.01.028
3) Nur Syafiqah Mohamad Ishak, Midori Kikuchi, Kazuto Ikemoto (2024) Dietary pyrroloquinoline quinone hinders aging progression in male mice and D-galactose-induced cells, Front Aging:5:1351860. doi: 10.3389/fragi.2024.1351860
4) Xie, W., He, M., Yu, D., Wu, Y., Wang, X., Lv, S., et al. (2021). Mouse models of sarcopenia: classification and evaluation. J. Cachexia Sarcopenia Muscle 12, 538–554. doi:10.1002/jcsm.12709